中学生のころ、なんの授業の担当だったか忘れてしまったが、
「わからないことがあったら辞書を引け! とにかく辞書を引け! 辞書がボロボロになるまで引け!」
が口グセの教師がいた。
あまりの辞書を引けアピールに、生徒たちはべつの意味で引いていた。
また「辞書を引いてないヤツは辞書の横が汚れていないからすぐにわかるんだからな!」とも言っていた。
「辞書の横」というのは、小口のこと。
※この画像はもちろん、無断転載である。
すでにヤツは、「生徒に教育をする」という本来の使命を忘れ、まるで辞書の暗黒世界に魂を売ったサタンもしくは、グレーターデーモンであった。
人ではない。
人の姿をしたバケモノ。
しかし、われわれ人間だって、そんな悪魔にやすやすと負けるわけにはいかない。
ポツダム宣言を受け入れ陛下がウケたwwwwじゃなくて、受けた屈辱に涙した神国日本の民の子孫である。
われわれは悪魔に対抗するために、まずは辞書をパラパラマンガのように何度も何度も親指の腹でこすった。
ある者は、体育の授業が終わったら手を洗わずに辞書をひたすら親指の腹でこすった。
ある者は、6Bの鉛筆の芯を親指なすりつけてから、それを辞書にうつした。
ある者は、鼻の脂を辞書の小口にこすりつけた。
何度も何度も。
こうして、ほとんどの生徒の辞書がかなり使いこまれたような状態になった。
「どこを見ればその辞書が使いこまれていないのかがわかる」という情報をみずから口にした悪魔をわれわれは半分バカにしていたのかもしれない。
しかし、あの悪魔は、そんな子どもたちの悪知恵などとっくにお見通しだった。
おそろしい! ああ、おそろしい!
「辞書を引けば、自然にページがしわくちゃになったりするんだ! そんな横だけ汚したってすぐにわかるんだからな!」
油断した。
失敗した。
この悪魔は、教師になってから(辞書の暗黒世界に魂を売ってから)もう何年もたっている、高レベルの悪魔なのである。
血で真っ赤な戦場に残ったのは、小口だけやたらと汚れているが中身は真っ白い雪原のような辞書だけだった。
そのあとも自分のように、辞書を1ページずつ軽くクシャクシャにして中身も使いこんだように見せようと最後まで抵抗を試みる者も数人いたが、いずれ中学2年3年と進級するうちに、あの悪魔の言っていることは正しかったんだと、生徒たちは思い知らされることになる。
さて、自分が知るかぎり、あの教師こそが世界最速で地上に降臨した「ググレカス神」である。
現在も教師を続けているとは考えにくいが、いまの時代に「辞書を引け」と言われた中学生がそれにしたがうかというと、はなはだ疑問であるが、たしかにググるのと辞書を引くのでは、そのあとの記憶に差が出るように思う。
よく「インド料理は手で食べないとホントの味はわからない」というが、やはり調べ物をするときにも視覚だけでなく、触覚も伴ったほうがいいのかもしれない。
そういう意味では、映画館の4DXで「シン・ゴジラ」を観ておけばよかったか。
時すでに遅し。